感想
絶海以降コナン映画からは遠ざかっていていたのですが、ゼロの日常やWPSを読んで興味を持ったのでDVDを購入して見てみました。
これまで「裏理事官」の意味がいまいちわからなくて、黒田のことがなんとなくでしかわからなかったのがスッキリしました。
題材
誤認逮捕送検という内容を劇場版で扱えることに少し驚きました。
裏があるからオッケーだったのでしょうか。
「櫻井さんが好みそうではあるな」と思いました。
BGM
昔のBGMが迫力あって好きでした。
劇場版用に曲が作られるのはわかりますが、近年の映画に使われる曲はインパクトに欠けるように思います。
また、そこは無音なのにそこはBGMが流れるのかと思うことがありました。
内容が昔よりハードではないのでBGMもまったりしたものに変わったのだとは思いますが、昔のものは怖さや緊迫感を感じるので好きでした(個人的には映画の後に本編にもよく使われるようになった「世紀末の魔術師」に使われたBGMが疾走感や緊迫感があり、全体的に良曲が多くて結構好きです)
映画は元々本編よりBGMは穏やかで、本編で死顔表現も緩和されていますし、そこは時代の流れ故なのかもしれません。
メインテーマの出だしはかっこよくていいですね。
アレンジも過去の作品とはタイプが微妙に違っていてそれがよし。
キャラクターについて
コナンや蘭のキャラが普段と変わっていて、二人だけが浮いていて終始違和感がありました。
途中から下の名前+先生呼びでしたが、蘭の性格だと悪人でもない弁護士には普通に弁護士さん呼びするのではないでしょうか。
トリックなどの重要な場面を削る必要はないですが、キャラクターのズレについては修正してほしいと思いました。
しかし、話の流れが特異なのでストーリーに影響されてキャラが変わってしまうのかもしれません。
他のキャラクターは基本そのままだったので、なおさら残念に感じました。
コナンについて
劇場版に限らないことですが、勿体ぶって話すことが増えたと思います。
本編アニメ化時は原作のままだと、話数の構成の関係もあるので付け足さない限り説明的になるのは「まあそうだろうな」としか思わないですが、劇場版までそうなるのは残念です。
ストーリーが薄いのでセリフで尺を埋めている気がしました。
基本的に感情的、不遜に描かれているのに違和感がありました。
新一で置き換えればわかりやすいですが、いくら蘭の父親である小五郎が絡んでいるとはいってもあまり感情的なタイプではないと思います。
探偵としての冷静さをそれなりに維持している「瞳の中の暗殺者」や「14番目のターゲット」が好きなので「うーん」という感じ。
原作だと紙飛行機の回は冷静さを失っていましたが、それでも小五郎絡みに対してこうなるかなという疑問は残る。これまでも容疑者の一人になったことはありますしね。
というか蘭が普段あまり感情的になるタイプじゃないし、いつもの英理さんがいた分余計に違和感が。前提がおかしいというか。
ただ、「今作の安室は敵なのか?」というところに主眼が置かれているのでこういったミスリード的役割を身近にいるコナンや蘭が担ったのだろうと思われる。
初見やよく知らない人には目新しさはあるとは思いますが、原作を知っているとちょっと大袈裟に感じるかな。
セリフ
途中から説明的な台詞が目立ちます。
ユーモアのある場面がありませんでした。
橘弁護士は説明する場面が多いためか話すスピードも遅くてテンポが悪かったです。
ゲストキャラが必要だからというのもあるとは思いますが、説明シーンは基本的に英理さんが担当した方がよかったような。
ストーリーについて
盗聴
見ながら「風見が迂闊だなぁ」と思っていました。
「着替えてないんかい」と思っていたらやはりバレて怒られていましたね。
Nor
「Tor」から名前をとったのかな。
IoT
「相棒」の「殺人ヒーター」(あれは設計不良ですが)が思い浮かんで、確認したところその回も櫻井さん脚本でした。
相棒はやりきれなさや後味の悪さが多く、そこが魅力的でした。
昔の相棒の櫻井さんが脚本担当した回は好きですが、コナンとは相性悪いと思います。
色々制約もありそうですし、作風がコナンの持つ明るさとは合わないのではないでしょうか(プレストーリーは面白かったです)
題材として公安を扱うのがダメなわけでもないですが、捜査一課メインで書いた方が面白そうだと思いました。
色々引っかかって映画化は難しいかもしれないですが、長野の啄木鳥会みたいな話であれば相性が良さそうです。
それこそ「瞳の中の暗殺者」で警察内部が若干疑われたような部分の本格的なところは櫻井さんの得意とするところだと思います。
この映画の脚本はなんとなく相棒のサザンカや神戸関連の話と雰囲気が近いですが(協力者と公安がはっきり描かれた回もあるのですが櫻井さん担当ではないのでそれは除外)コナンは警察官ではないので話の展開にかなり無理があるのではないでしょうか。
コナンが探りに行くのではなく、物騒なことを言うとテロ(?)に巻き込まれる形の方がよかったと思います。
「閉鎖的な状況で互いに協力せざるを得ない」といった形がコナンらしいのではないでしょうか。
いくら安室がコナンを普通の子供だと考えていないとしても、強引な展開だと思います。
映画は大体巻き込まれパターンだと思うのですが、定番を崩したのでほとんどのレギュラーキャラとコナンがコミュニケーションをとることもなく進んでいて、つぎはぎな印象。
安室にスポットを当てるためのストーリーなのはわかりますが、レギュラー陣はおまけ程度にしか出ておらず、結果的にコナンが変に目立っていて浮いていると感じました。
揺れる警視庁の高木とコナンみたいな関係にはしづらかったのでしょうか。
公安を扱うということで敢えて小五郎を間に挟んだのはわかりますが「名探偵コナン」でやると突飛に感じました。
触れるわけにもいかないとはいえ、小五郎に対するフォローもないのでなおさら違和感が。
ここまで公安の面を押し出すのなら、邪道ですがコナン不在完全スピンオフの映画にすると大人向けでうまく話がまとまった気がします。
食い合わせが悪いというか、どっちつかずな作風になっていると感じました。
相棒の脚本だと古沢さんや戸田山さんの方が登場人物を動かす勢いや話の盛り上げ方が漫画的です(どちらのタイプも好きです)
櫻井さんはどちらかといえば登場人物を押し出すよりストーリーに重きを置いている(その上でキャラクターが生かされる)と感じるので、肝心のコナンキャラに色々と制約がある分、難しいのではないかと感じます。
櫻井さんが脚本を担当している相棒の話では印象に残る一風変わったトリックや胸を打つ社会派・人情派ミステリであったり面白い回は多くあるのに劇場版コナンでその本領が発揮されているとは言いがたいのではないでしょうか。
やはり、ただでさえ子供向けを意識する劇場版且つ、作風的に踏み込んだものには制約がつくと想像がつきます。
さらに定番のシーンと作者の描きたいシーンも付け足されるわけで、圧倒的に尺が足らないと思われます。
作品によって多少前後するとは思いますが、元は3時間分くらいあるものをまとめたりするのにどれだけ削られているのでしょうか。
縁あって関わっているのだろうとは思う反面、これで本当にいいのだろうかとも思います。
素人目には原案をお願いして、テレビアニメのコナンを昔から担当されている脚本家さんを脚本側においた方が効率よさそうな気がします。
その他色々
- 予想外な展開がありませんでした。
羽場さんについては死亡偽装なのはすぐわかりましたし、フェイクを入れられそうな実写と違ってそのあたりは想像がつきやすいのではないでしょうか。
特に相棒を知っている人には簡単に予想できてしまうので、もう少しひっかけがあればよかったと思います。
- 無闇にくどいアクションシーンが苦手です。
これをやるようになってから劇場版コナン見る気が失せたんだったと思い出しました。
爆発シーンならわかりますが、スケボーはおまけ程度の方がいいと思います。
初期でも使うシーンはあるものの、すぐ場面が切り替わったり、あれでもやりすぎ感は抑えています。
- 日下部さんの動機くだらなさすぎ。
初期のコナンの「復讐」に執念を燃やす犯人の行動力が好きなのですが、近年そういうのはないのでしょうか。
- 「思い上がるな」のところはいいと思いました。
しかし、コナンの作風と合っていません。
「もう解放する」と突き放した上で公安2人がその場を去った後にコナンが真相を話して「真実がわかっても絆されたりしない」で終わる方がやりすぎず普段と一味違う名探偵コナンになってよかったのではないでしょうか。
相棒に慣れているので描きたいことはわかるのですが、コナンファンとして見ると終始無理矢理感が拭えない。
コナンと協力者たちの間にコミュニケーションがほとんどないので思い入れがなく、外部から推理しているだけです。
いっそのこと羽場さんに違う名前を名乗らせて当初から探偵団と接触させるとか、実はずっとレギュラーキャラクターと関わっていたことにした方がよかったかもしれません。
総評
このセリフ入れたい=無理矢理な展開は微妙かな。
例のシーンはもっと違うストーリーで、日常シーンで触れた上でキャッチコピーにするなら有り…かなぁ。
唐突感が否めない。
「今、そんな話する?」と興醒めしてしまいます。
アクション自体が無茶苦茶なので、いっそその場の勢いで笑ってしまいますが大真面目なシーンだと思うと本意ではないだろうし。
これまでのコナン映画で笑えたシーンとも違いましたし。
どうせならコナンが蘭を想うシーンと重ねて聞いてみたらまだ自然だったかなぁ。
とはいえ、狙われた場所がピンポイントだしそれもそれで無理があるのか。
漫画(原作)は漫画、映画(アニメ)は映画で、漫画でできないことを映画にするというスタンスにしても、もう少しストーリーの部分で肉付けというか、すっきりとまとまらないものかと思います。
劇場版については初期から描きたいシーンは原作者が介入している印象ですが、肝心のストーリーが心許ないとチグハグ感がより増します。
あるいは必要な部分が削られていることがあるのかもしれません。
動かしやすいキャラクターの偏重とは違って、題材は合っているので安室については(というかコナンと蘭以外は)おかしくなかった分、惜しいと思いました。
この映画について事前に具体的にどんな内容か調べたわけではなく、高評価というか評価の数(見た人の数)自体多かったので意気込んで見たのですが、期待ほどではありませんでした。
他の劇場版コナンと比べても、繰り返し見たいと思うような部分がない作品で、合わない人はとことん合わないので購入には注意した方がいいかもしれません。
参考までにいうと「江戸川コナン失踪事件」が合わないなと思う方はあれと同じか、もっと合わない可能性が高いです。
「失踪事件」の方だとストーリーはしっかりしているのですが「何年前の設定の蘭だよ…」というノリを持ってきたり、江戸川コナンが終始普段の人格のコナンとして動いているわけではないのでずーっともやもやしながら見ることになります。
キャラクターの性格などにこだわりのある、普段見ているのと乖離があるのが苦手という方は執行人とこちらの作品はおそらく肌に合わないと思います。
おそらく、普段コナンを見ないとかでツボにハマる場合はとことん合うのかも。
長く関連作品を追っているとどうしても固定観念を持ってしまうので、なかなか難しいところです。
ただ、例のシーンのセリフそのものについては子供の頃の話やWPSを踏まえると「僕の日本」という言葉をよりわかりやすく明確に強化した形になっていて、その点は映画を見たことですごくしっくりきました。
あの「僕の」という部分について読んだ当時、メタ的に安室が公安(ゼロ)という説明のためのセリフにしても国は一個人ではなくその国で暮らすみんなのものでは?みたいな引っかかりを覚えたので、もやもやしていたのがすっきり。
それだけでも見る価値があったなと思いました。
探偵の安室透であり組織のバーボンでもあるが、公安の降谷零のアイデンティティについて掘り下げる意味で効果的なセリフだったと思います。
あの場面についてはコナンと安室(降谷)がもうちょっと親しければ違和感がなかったのかも。
原作では腹を割って話す仲でもない上に、お互い立場上それが当然ではありますし。
元々コナンが気兼ねなく話せる相手といえば博士や服部くらいですが。
諸々知っている分には流れ自体はわかるのですが「そんなこと聞く仲か?」みたいな唐突感があったのが惜しいなと感じました。
逆に、基本設定くらいで原作をあまり知らない場合、劇中の流れですんなり受け入れられたのかもしれない。